昇給制度は企業によってさまざまですが、年功序列の賃金制度をベースにしている企業の場合、年齢につれて給与があがる「定期昇給(定昇)」と、「ベースアップ(ベア)」に区分されます。前者は年齢や社歴と連動したもの、後者はそれらと関係なく給与水準そのものを一律で引き上げるものです。
日本では1980年代までは物価上昇に伴い、2~5%のベアが実施されてきました。しかし、90年代以降は、デフレや不況の影響で、ベアを実施する企業が少なくなり、2000年代初頭からはベアの統一要求が見送られてきました。ところが、2014年の春闘で、連合はインフレ政策を受け、5年ぶりに統一的なベアを要求。大手を中心とした企業におけるベアと定昇を合わせた賃上げ率は15年ぶりに2%を超えました。
ベア獲得は労働者にとっては喜ばしいことですが、今は複数の問題をはらんでもいます。その一つは、2014年にベアを実現できたのは大企業が中心で、中小企業には波及していないということです。また、非正規雇用者はベア対象外という企業も多く、正社員と非正規雇用者の間に大きな給与の差を生んでいます。その結果、労働者間の賃金格差は拡大し、かつ非正規雇用者の割合が高まる傾向にあるのです。
また、ベアは一律で労働者の基本給を上げるため、その分企業の負担が増えます。そのため、業績悪化で給与支払が難しくなった場合に、人員削減の口実にされやすくなるという問題もあります。
労働組合の活動では「ベア獲得」に注力しがちですが、「ベア獲得“後”」の労働環境の変化にも注目しなければなりません。正社員だけでなく、非正規雇用者など幅広い雇用形態の組合員の声に耳を傾け、職場の様子に注意する。労働組合は、ベア獲得を組合活動の活性化につなげ、よりよい職場環境づくりのきっかけにできるよう、留意していく必要があります。