ユニオン・ルネッサンス Vol.4

労働組合の社会的責任を考える~その2~

株式会社アプレ コミュニケーションズ代表/鹿野 和彦

 

 労働組合の社会的責任を考えるコラムも今回で4回め。前回に続いて、「外なる責任」について考えてみたいと思います。
 

労働組合の「外なる責任」その2

 〔政治以外にもなすべきことがある〕
 2014年12月に行なわれた総選挙は、「自公政権」の圧勝、共産党の躍進、次世代の党をはじめ、日本維新の党を除いて第3極が軒並み壊滅状態に陥る結果になりました。労働組合が推薦する候補が多い民主党は、改正前の議席を上回ったものの、政権を失って以降の党勢回復が容易ではない実態を浮き彫りにしました。
 前回のコラムで、労働組合が政策制度に関する運動、政治活動への取り組みの重要性を指摘しましたか、上記のような政治状況がしばらく続くことを考えると、働く人の安心・安全を具現化するような政治体制を構築するためには、あとひと頑張りもふた頑張りもしないといけない状況になったといえるでしょう。
 もっとも、だからといって、労働組合が社会的責任を果たす道が他にないかというと、私はそんなことはないと思います。というよりも、政治活動の前になすべき社会的責任、労働組合ならではの社会運動を今こそ実践すべきだと考えます。
 

〔共益から公益をめざす運動の構築を〕
 日本の労働組合は、企業を単位に組織化されることが多く、ともすれば、運動が内向きになりがちです。しかし、労働者は、組織労働者だけではありません。むしろ大半は未組織労働者であり、最近は、非正規雇用労働者の割合が増加しています。
 “弱い立場にあるものが協力、連帯してこそ不条理に立ち向かえる”“高い志、不公正さや不条理なものへの対抗力、それを正すための具体的な運動と闘う姿勢が必要だ”
 これは、21世紀初頭、連合がこれからの労働運動のあるべき姿を外部有識者の議論に委ね、「評価委員会・最終報告」としてまとめられた提言書の一節ですが、労働組合は、自
分たちの「共益」だけでなく、「公益」を求める運動へ軸足を移す必要があります。
 
 今、一部では、組織労働者を“大企業の恵まれた労働者”、その運動を“自分たちの利益を得るための運動”として見る向きもあります。しかし、そうした労働者を分断する見方には毅然として対峙する必要があります。なぜならば、労働者は連帯することで力を得る存在だからです。仮に今、恵まれている立場・環境にいる労働者であっても、ずっと恵まれた状況にある保証はありません。今、正社員で働いている人が、病気や事故、その他の状況で非正規雇用労働者になったとき、今の賃金水準で日々の暮らしを営んでいけるのか・・・。そうした“想像力”があれば、今、起きている不条理は、特定の人の不条理ではなく、働く人すべてが直面する可能性のある不条理だと認識できるはずです。
 労働組合は、今こそ、自らの運動を“社会化”していくこと。社会的課題に対して傍観者でいることは、明日の自分の未来を閉ざす行為として認識し、一人ひとりが当事者として不条理に立ち向かっていくべきだと考えます。そしてそのためには、政治への影響力を持つだけでなく、社会を構成する一つのセクターとして、自らが主体的に“安心社会”を創造していく気構えと運動論を持つべきではないでしょうか。
 

〔社会的課題へのアプローチと地域貢献活動〕
 戦後の労働運動の歴史を見ると、平和や人権といった社会的な課題に対して、労働組合が真摯に向き合ってきた歴史をみてとることができます。しかし、その運動にイデオロギーが持ち込まれたり、“守る・反(アンチ)”の思想あっても“創る・止揚する(矛盾を克服する)”の思想や知恵が足りなかったことから、社会的なうねりを創り出すことはできませんでした。また、労働組合のなかに対立の構図を作り出し、社会的な課題に向き合うこと自体を政治的だとみる、アレルギー反応さえ生んでいます。
 
 しかし、平和や人権は普遍的な価値観です。平和・人権を叫ぶ人=左翼的であるという発想自体、イデオロギー過多な見方でしょう。今、特定秘密の問題や集団的自衛権の問題
など、もっと真摯に丁寧に議論しなければならない問題が、目の前をスルーしていきます。
また、原発の再稼働をはじめ、国民の多くが反対、ないしは慎重な議論を求めている問題も、政財界の意向で安易に政策転換されています。私たちは、そうしたことを自分事としてとらえ、明確な意志表示をしていく必要があります。労働組合も、組合員の真の幸せを追求する立場から、どのような価値を大切にしていくのか、どのような社会をめざしていくのかを真摯に考え、運動課題として取り組んでいくべきでしょう。
 

 同時に、社会的運動が、ともすれば反対運動一色になりやすいことから、反対を超えた新しい規範を構築する運動にも取り組む必要があります。反対の先に何を生み出すのか。創造の視点がない運動に未来はありません。政治任せにするのではなく、あるべき社会をめざして、労働組合自身ができる身近な事起しを始めるべきだと考えます。
 その意味で、本サイトでも紹介したJP労組の「福祉型労働運動」(現場レポート:日本郵政グループ労働組合「福祉型労働運動/JP smile プロジェクト」)は参考になります。これは、地域に密着したJP労組として、地域社会に対して何ができるかを考えることから生れた運動で、労働組合のマンパワーや情報力・交渉力などを貴重な事業資源として活用しながら、少子高齢化、子どもの安心・安全、自然環境保全や大規模災害などの問題に取り組んでいます。
 これからの労働組合は、こうした事例にも学びながら、積極的に“安心社会”の創造に取り組んでいくことが大事です。そして、労働条件の向上と社会的課題への取り組みを両輪として設定することで組合員の求心力を回復し、あらためて労働組合の存在意義を組織内外に示してほしいと思います。
 

PROFILE

鹿野 和彦(かの・かずひこ)
1991年に広報PR&人材育成支援等を行う株式会社アプレ コミュニケーションズを設立、2001年には仕事と暮らしの研究所を設立して労組・大学・自治体等のシンクタンクとしてサポート事業を展開。大正大学非常勤講師/キャリア教育研究所招聘研究員、労働組合・各種団体の客員研究員。著作のテーマは人材育成、教育・社会問題、広報関係等幅広い。

コラム&オピニオン】の他の記事