日本労働組合総連合会 会長 神津 里季生≪前編≫

2016.6.27【インタビュー

労働組合が政治に参画する意義を
自信をもち、胸を張って伝えてほしい

労働組合、連合が認知度をさらに高め、社会性を持った組織へと進化するために、今なにが求められているのか。また、参議院議員選挙が近づくなか、働く人の声を政治・政策へと届けるために、労働組合が担う役割はどのようなものなのか。連合の神津里季生会長にその展望を伺った。
(聞き手:アプレ コミュニケーションズ 代表 鹿野 和彦)

 
鹿野──日本社会は先が見えない混沌とした状況が続いています。労働組合や連合が社会的な存在として、これまで以上に存在意義を高めるためには、どのような課題と向き合う必要があるのでしょうか。
 
神津──労働組合や連合は、社会に開かれた存在であることを、国民や労働者に認知されなければなりません。しかしながら、これまでも社会的な活動を実践してきたにもかかわらず、その中身を十分に伝えきれていない現状があります。どうすれば労働組合の内・外に的確に情報を発信し、理解を深めていけるのか。労働組合や連合の姿をきちんと伝えたい、という思いは、会長の就任前、就任後、ともに変わっていません。
 労働組合の内側にいる組合員に対しては、情報が的確に伝わっているのかを検証しなければなりません。労働組合の組織は、執行部が存在し、それぞれの役員が職場の組合員とつながる構造が基本です。役員と組合員とのつながりを強固にすることで、労働組合の意義や活動内容が伝わっていきます。

組合員に遠慮することなく、情報を伝え、
声を聞き取ることが、相手に対する思いやり

 けれども、職場はどんどん多忙になっており、組合活動に時間を使わせるのは、組合員の迷惑になるのではと思いがちな役員もいて、本来なら組合員に積極的にアプローチすべき役員が遠慮、自己規制してしまう場面もあるように思います。しかし、そうした行動は心情的に理解できますが、情報が伝わらないことは組合員にとって逆にマイナスです。組合員の不利益につながる状況に導くことは、結果として、相手に対する思いやりに欠ける行為であることを認識すべきです。物事をきちんと伝え、組合員が日頃感じていることを聞きとる。そのキャッチボールこそが、相手に対する思いやりだと捉えるべきではないでしょうか。
 また、連合としては、労働組合という傘をもたない8割以上の労働者に対しても情報を発信し、サポートしなければなりません。労働組合とはなにか、連合とはなにか、ということを伝えながら、実際に手を差し伸べることで、社会に対する存在意義は高まっていきます。連合が労働者全体に目を向けることは、力量強化と労働者全体の地位向上にもつながりますし、今後も強い意識をもって取り組んでいきたいと思います。

 
鹿野──労働組合や連合の意義を社会全体にアピールするためには、マスコミ等とのリレーションも大切ですね。

 
神津──そうです。今の状況を見ると、労働組合の全体像を捉えずに、一面的に伝えられているケースが多いように思います。マスコミの多くは社会部、経済部、政治部などの部門別に構成されており、トピックごとにそれぞれの各部門が報道します。歴史を振り返ると、戦後は社会部が中心となって、社会現象となっていた労働争議やストライキなどを報道しました。高度成長期に入ると、春闘での賃上げなどが注目され、主役は経済部へと移っていきます。その後、連合が発足すると、政治の話題に関心が集まり、政治部が主導的に報道しました。
 現在は、各部門の報道の量にそれほど差が出ない状況で、報道量も減る傾向にあります。その分、自ら主体的に情報を発信しなければ、国民に言いたいことが伝わりませんし、今後はあらゆる機会を捉えて、情報発信のボリュームと質の両面を高める必要があります。また、労働組合の活動は横断的に全体像を伝えにくいという課題があります。そうした課題を克復しながら、いかに連合、労働組合の社会的認知度をあげていくか。まだまだ超えるべきハードルは高いですね。

 
鹿野──たしかに、労働組合は固定観念をもって一面的に捉えられるケースも多いのだと思います。なかでも政治活動は、誤解されやすい取り組みの一つです。7月10日に参議院議員選挙がありますが、政治と労働組合の関わりや18歳選挙権について、どのように捉えておられますか。
 
神津──政治と労働組合の関わりは、連合誕生の経緯にも関連します。連合が発足するまでのナショナルセンターは、総評、同盟、中立労連、新産別の4つに分かれていました。その結果、税金、年金、医療といった政治が深く関わる社会的な課題に対して影響力が分散し、労働組合の存在意義を低下させる一因となりました。そこで先輩方が尽力し、「一緒に戦おう」と結束し、1989年に連合が発足したのです。連合発足の経緯を考えても、労働組合がめざす社会政策を実現するために、政治と正面から向き合うのは当たり前のことなのだという認識を持つ必要があります。

「労働組合だからこそ、政治と正面から向き合う」
と神津会長

 また、7月の参議院議員選挙から18歳に選挙権が引き下げられたため、主権者教育という言葉を頻繁に耳にするようになりました。けれども、主権者教育は民主主義社会では当たり前に取り組むべきことの一つ。日本の教育では、主権者意識を育むプロセスがスポッと抜けてきました。なぜ政治に向き合うのか、なぜ投票に行かなければならないのか、という根本の部分を若者に伝えないまま今日に至ったのです。
 日本の未来をつくっていくためには、有権者一人ひとりが当事者意識をもち、自らが政治に参画し、自らの一票を投じなければなりません。組合の役員の方々には、そのことを若者や組合員に対して胸を張って伝えてもらいたい。労働組合だからこそ、政治と正面から向き合うことを遠慮なく伝えてもらいたいのです。実際、組合の役員から政治の大切さを教わったことで意識が変わり、選挙に足を運んだ若者も数多くいるはずです。(後編に続く)

 

PROFILE

神津里季生(こうづ・りきお)
日本労働組合総連合会(連合)会長
東京大学教養学部卒業後、新日本製鐵株式会社入社。
1998年、新日本製鐵労働組合連合会書記長に就任。
2002年、新日本製鐵労働組合連合会会長に就任。
2006年、日本基幹産業労働組合連合会(基幹労連)事務局長に就任。
2010年、基幹労連中央執行委員長に就任。
2013年、日本労働組合総連合会(連合)の事務局長に就任。
2015年、連合会長に就任。現在に至る。

インタビュー】の他の記事