埼玉県労働セミナーレポート/同一労働同一賃金のポイント

2022.4.18【現場レポート

同一労働同一賃金がめざすものと
取り組みの実例

埼玉県では、事業者や労働者、就活中の方に向け、労働法令や労働関係の身近な問題をテーマにした「労働セミナー」を開催しています。令和3年度には「同一労働同一賃金」をテーマとしたセミナーが、動画配信方式で開催されました。なぜ法改正がされたのか、企業はどんな取り組みをしているのかなど、一組合員として把握しておくべきセミナーの内容をダイジェストでお届けします。
※当セミナーの配信は令和4年3月末をもって終了しております。

 

講師:佐藤義哲さん 
社会保険労務士
大手コンビニエンスストア本部勤務後に、埼玉県北川辺町役場に入庁。広報や財政事務、人事担当を経て、加須市役所総務部職員課に配属。その後、2015年に社会保険労務士・労務コンサルティング事務所を設立。顧問先企業への労働相談や、講師として研修業務などを行っている。
 

「人口ボーナス期」から「人口オーナス期」へ
 同一労働同一賃金は、労働関連法の改正を含む「働き方改革関連法」の成立により、大企業では2020年4月から、中小企業では2021年4月から実施されています。同一労働同一賃金とは、正社員、有期契約者、パート社員などで雇用形態が違っても、同じ企業、同じ職務内容、同じ責任の程度である場合は、待遇に差をつけてはいけないという考え方です。この考え方は、「働き方改革」が取り組まれている背景と深く関わっています。
 現在の日本は、人口ボーナス期から人口オーナス期へと移行しているといわれています。「人口ボーナス期・人口オーナス期」とは、ハーバード大学教授のデビット・ブルームが提唱した概念です。「人口ボーナス期」には、生産年齢人口の比率が高く、重工業メインで働く人は男性が主力です。早く安く物を消費する、大量生産・大量消費社会のため、経済発展しやすい環境ですが、ボーナス期はひとつの国に一度しか訪れません。
 これに対して、「人口オーナス期」は、重工業ではなく知的労働の比率が高まることで、労働力が不足するため、性別や年齢に関係なく労働力をフル活用する必要が生まれます。そのため、これまでのようにフルタイムで働く人だけでなく、さまざまな立場で働く人のための労働環境の整備が必要になります。また、時間あたりの費用が高騰し、短時間で効率的に成果を出す仕組みも求められます。
 つまり、人口オーナス期は、「男女、多様性、効率よく」をキーワードにした働き方が求められるのです。同一労働同一賃金も、その一環としてとらえることができます。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

取り組みの実例をもとに適正な整備を
 現在の日本では、雇用されている労働者の約4割が正社員ではなく、パート社員や契約社員、派遣社員といった、非正規社員です。正規と非正規の間にある不合理な待遇格差を埋め、優秀な人材の確保や、賃金や福利厚生を充実させ、働く人のモチベーションを高め、生産性の向上につなげることが、同一労働同一賃金のめざすところです。
 同一労働同一賃金をきちんと整備するために、2020年4月に施行されたのが「パートタイム・有期雇用労働法」です。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 パートタイム・有期雇用労働法が全国の企業に施行されてから1年程度たち、具体的な企業の取り組み事例も出始めています。
 例えば、ある介護事業所では、これまでは基本給を労働者の年齢で決めていました。ですが、同一労働同一賃金を実現するために、年齢を基準とする本給と、仕事内容等に応じた職務等級と人事考課の結果に応じた職務給によって支給額を決定する仕組みに変更しました。また、正社員とパート社員の、手当の格差も是正しました。パート労働者は住宅手当の対象外でしたが、正社員と同じ支給基準で手当を支給することにしました。
 研修制度も見直しました。これまでパート社員は現場での教育(OJT)のみでしたが、正社員しか参加できなかった講習会や研修会に参加できるようにしました。
 以上の見直しを行った結果、取り組み前は約60%だった退職者の割合は、6~7%までに減りました。手当や研修制度が見直され、きちんと評価されるようになったことで、社員全体のモチベーションが上がり、離職率が大幅に減少したという事例です。
 
 2021年4月からすべての企業で適用されている同一労働同一賃金。もし、正規社員と非正規社員で手当の差があり、短期間労働者や有期雇用労働者から待遇差や理由などを聞かれた場合は、事業主は説明をしなければなりません。第三者に説明しても納得がいくように、「なぜ差があるのか」きちんと整理しておくことが重要です。
 同一労働同一賃金への取り組みを行っている企業は、離職率の低下や優秀な人材の確保につなげています。ガイドラインだけでなく、過去の実例などをもとに適正な仕組みづくりをしていくとよいでしょう。

 

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