トライ&エラーを繰り返し
自ら道を切り拓くリーダーであれ
鹿野──古賀会長は対話運動などを通して、現場の声を積極的に吸い上げておられます。ご自身のこれまでの経験を通して、組合のリーダーはどのようなことを大切にすべきと感じていますか。
古賀──わたしの経験から言えば、労働組合のリーダーに求められる資質は5つに分けられます。次代をリードしていくためには、日々の運動を通して、これらの資質を磨くことが大切だと考えます。
①対話能力を持ったリーダー
第一に求められるのはコミュニケーション能力、対話の重要性を体得しているリーダーです。コミュニケーションとは、会話や報告が上手にできるというレベルではありません。価値観の違う人間同士が、互いにわかり合うために歩み寄り、接点を見いだすことがコミュニケーションであり、対話だと思うのです。
言いたいことを伝えつつ、自分とは違う価値観を共有する作業は、難しく、苦しみも伴います。そのつらさを避けるために、相手に深く入り込まぬまま、安易に逃げてしまう人がいます。しかし、それは、単に会話や報告をしているだけで、コミュニケーションが取れている、ということにはならないでしょう。
30年以上前の話ですが、私が専従役員になりたての頃、関連会社の組織化を手伝ったことがありました。関連会社といってもオーナー企業で経営者が力を持っていたため、労働組合をつくることが発覚すれば、そこの社員は即クビです。わたしは、組織化の手続き方法や労働協約の結び方などを教えていたのですが、「古賀さんは大きな組織の専従だからいいですよね」とはじめのうちは言われました。彼らはクビ覚悟で組織化を進めなければならないので、そういう気持ちになるのもわかります。
けれども、来る日も来る日も対話を続けていくうちに、「古賀さんがそこまで言うならやってみようか」という姿勢に変わったのです。ですから、時間はかかるかもしれませんが、メールで要件だけを伝えるのではなく、正面の対話、本当のコミュニケーションを臆せずできるリーダー、それがこれから重要になると思います。
②人の弱さを知ったリーダー
2つめは人の弱さを知ったリーダーですね。人ひとりというのは悲しいかな、弱いんです。その弱いということを原点に置きながら活動できるリーダーは、人の痛みを感じながら行動できる人だと思います。社会に弱者は必ず存在します。そういう人たちに目を向け、社会のなかで居心地のいい場所をつくれる人が、リーダーの素質を持っている人だと言えるでしょう。
これも専従役員の頃の話ですが、“なんでこの人が?”と思うような組合員が、借金から抜けられなくなり、相談に訪れるケースを見てきました。組合に相談にくる人は氷山の一角なのでしょうが、相談してくれれば助けることもできる。「周りの支えさえあれば」という思いを強く持ちました。
これがまさに人ひとりの弱さなのだと思うのです。なにかあったときに弱いほうへとすっと流れてしまう。職場にコミュニティがあり、助け合う環境さえあれば、正しい方向へと引き戻すことが可能なのです。弱さを知っているリーダーであれば、もたれ合いではなく、支え合いの大切さを理解できるのだと思います。
③政策能力を持ったリーダー
3つめは政策能力を持ったリーダーです。わたしが若かった頃は、会社側から提案があった場合、「ノー」と突き放してから協議が始まるという流れが一般的でした。高度成長時代であれば、拒絶からはじめることは、交渉の手法として正しかったのでしょう。
けれども、現在のような成熟社会になると、会社側に対する政策をきちんと持たないと、後手に回ってしまいます。連合であれば、自分たちの政策をつくり、政府ときちんと対峙できなければなりません。政策能力を持たなければ、集まった人数の量に任せたアプローチしかできませんし、それでは事態は改善しない。政策立案能力を持ったリーダーでなければ、問題に立ち向かえない時代であることを理解する必要があります。
④決断のタイミングを誤らないリーダー
これは極めて重要なことですが、判断とか、決断するタイミングを誤らないリーダーが必要です。いつ判断するか、いつ決断するか、というタイミングがずれると、早くても遅くても無用の混乱を引き起こします。物事によってそれぞれタイミングは異なるため、その判断基準は個々人で体得するしかありませんが、タイミングを考えながら運動することが、リーダーの務めになります。
特に価値観が多様化する時代では、運動においても、政策においても、賛成と反対が渦巻くような議論が多くなります。リーダーはそれぞれの声を聞き入れながら、自らの意志でタイミングをみて決断を下せなければなりません。
⑤行動力のあるリーダー
最後は行動です。行動が伴わなければ、なに一つ成し遂げられません。
なにかにチャレンジすれば、失敗することもあります。けれども、トライ&エラーを繰り返さなければ、新しい道は開拓できません。少々冒険であってもトライしてみる、行動してみる、実践してみる。自らの行動を通して、新たな領域を切り拓く覚悟と情熱がリーダーには求められます。
けれども、リーダーが覚悟と情熱を持っていても、そこに組合員がついてこられなければ、運動は成り立ちません。組合員が一体となった運動を展開するためには、信頼や共感が不可欠です。行動力あるリーダーになるためには、覚悟と情熱に加え、信頼や共感が必要になります。
鹿野──最後に次世代を担う若きリーダーに向けてメッセージをお願いします。
古賀──若きリーダー、次世代を担うリーダーには、人とのつながり、社会とのつながりのなかから、自分の役割や居場所をきちんと確立してもらいたい。若いということは、体力的にも、精神的にも、エネルギーに満ちているということです。ですから、先ほど述べたトライ&エラーをどれだけ繰り返せるかが大切になります。失敗しても、また立ち上がればいい。それができるのが若さの強みなのです。
また、一般組合員は、現場のリーダーの一挙手一投足を見て、組合とはなにか、ということを感じています。極端な話、連合や産別は、組合員が直に接する機会が少ないため、ダイレクトに影響を与えることは難しいかもしれません。ですから、現場のリーダーは組合員に対して、一歩踏み込んで接してもらいたい。ときには厳しいことを言わなければならないこともあるでしょう。けれども、そこで腰が引けるのではなく、主体者としての意識を強く持ち、前向きに運動を推進してもらいたいと思います。
古賀伸明(こが・のぶあき)
日本労働組合総連合会(連合)会長
1975年、宮崎大学工学部卒業。松下電器産業株式会社入社。
松下電器産業労働組合中央執行委員長を経て2000年、全松下労働組合連合会(全松下労連)会長。
2002年、全日本電機・電子・情報関連産業労働組合連合会(電機連合)中央執行委員長。
2004年、全日本金属産業労働組合協議会(金属労協)議長。
2005年、日本労働組合総連合会(連合)事務局長。
2009年、日本労働組合総連合会(連合)会長。現在に至る。