サッポロビール労働組合/五感塾

2022.8.29【現場レポート

ものづくりの現場で見て感じて体験し
個人・組織の成長と地域との交流を図る

サッポロビール労働組合は7月初旬、栃木県大田原市で支部役員を対象とした体験型の教育研修「五感塾」を開催しました。本来は2020年に行う予定だったものの、コロナ禍の影響で延期に。2年越しの開催となりました。事務局として運営に携わった金森達哉氏、菰方美沙都氏と、支部役員とともに参加した雪野洋平氏の3人に話を伺いました。

 

― 「五感塾」を開催するきっかけは何だったのですか?

 

菰方:
 2019年ごろの話だったと思います。2020年から6年間の新しいビジョン「VISION2026」の内容を検討するにあたってそれまでの組合活動を振り返った時に、個人の成長と会社の成長双方につながる人材育成がなかなかできていないこと、そして地域とのつながりがあまりできていないことが課題として挙がりました。何か具体的な解決策はないか検討していた中で、サントリー食品インターナショナル労働組合(当時)が岩手県陸前高田市で開催された「五感塾」についての話を聞き、これはぜひとも私たちも導入しようという話になりました。

 

― どのような話を聞かれたのですか?

 

(上から)金森達哉氏、菰方美沙都氏、雪野洋平氏

菰方:
 東日本大震災からの復興や街の再生に向けた取り組みが行われている陸前高田市に皆さんで足を運んで、被災状況や復興・再生に向けた取り組みの内容について話を聞き、「私たちにできることは何か」「地域の方との交流を通じてどんな気づきがあったか」についてディスカッションをした――というような話をしていただきました。

 
金森:
 普段の組織の中での組合活動や会社での業務を通しては気づけない物事を、たくさん得ることができるのが五感塾だと、話を聞いて感じました。ただ「気づけるかどうかは参加した本人次第。地域の方に積極的に質問したり、自分の価値観を伝えつつ周りの意見も吸収したりと、主体的に参加することで、五感塾が有意義なものになる」という話もいただきました。受け身ではなく主体的に行動を起こすことで、いろんな人の価値観に触れ、成長につなげることができる。そこに魅力を感じて、私たちも取り組んでいこうという意見で一致しました。

 
 
菰方:
 「五感塾」はそもそも、いすゞ自動車で長年企業人教育に携わり、“再建の立役者”と言われている北村三郎氏が提唱した「人間力を磨く学習方法」と知りました。地域の現場に赴き、その地域に伝わる伝統文化やその地域のために働く志の高い人にふれることを推奨されていて、私たちも「五感塾」として実践しようということになりました。

 

― 訪問先や参加人数はどのようにして決められましたか?

 

今回参加した皆さん。支部役員7人に加えて労働組合本部のメンバー3名、事務局からは金森氏が参加しました    
(1日目・前田牧場にて)

菰方:
 訪問先は実際に足を運んで、(1)そこでしかできないような体験をしたい、(2)体験や地域の方との交流を通じて、気づく力を養いたい――という2点を重視して選定をすることにして、紹介いただいた、体験型企業研修サービスを展開する会社に要望を出したところ、栃木県大田原市を提案いただきました。

 
金森:
 大田原市では、いわゆる1次産業の農林水産業だけでなく、作物を加工して販売ルートに乗せてお客様に届けるという6次産業も展開されている地域でした。ビールメーカー、つまりものづくり企業である私たちとも共通点が多いと考え、伺うことにしました。

 
菰方:
 人数については、参加者それぞれの価値観にしっかり触れ合い、交流を持つことを重視したいと考え、少人数で開催することにしました。今回は手挙げ制で参加の意向を示してくれた5つの支部の役員7人に加えて、労働組合本部のメンバーも参加しました。

 

―1泊2日で開催されたそうですが、現地での活動内容を教えてください。

 

トウガラシの苗の植え付け作業を行う参加者。現地の従業員の方に作業法を教わった後、みんなで手分けして作業しました(2日目・古谷農産にて)

雪野:
 1日目は前田牧場を訪問。こちらでは食肉用のホルスタイン牛を約2,500頭肥育しながら、イチゴや米、アスパラガスなども生産されていて、それらを使った加工品の製造・販売や、飲食店の経営をされています。はじめに経営や作業員の雇用の状況などについて話を伺った後、実際に牧場や畑、堆肥の生産現場を見学しながら、食用の牛を育てることや牛の肥育と農業の両立させることへの思いなどについて話を伺いました。その後、広大なビニールハウスの中で、イチゴの収穫終了後の処理作業を体験しました。株を根っこから掘り起こして抜き取り、きれいにしていく作業を体験することができました。最後に、得たこと・考えたことについてグループに分かれてディスカッションを行い、発表し合いました。働く場所も担当業務もバラバラで、普段は接することのない仲間と同じ作業を行い、価値観を共有するというのはすごくいい機会だと感じました。
 2日目は、古谷農産に伺って、トウガラシの苗を植え付ける作業を体験しました。「百年先の未だ見ぬ子孫にも郷土の自然と食を伝えたい」という情熱を持った農家で、その想いやこれまでの取り組みなどについても話を伺い、その後に実施したグループディスカッションでも、参加者の皆さんがそれぞれ感じた熱い想いを共有することができました。
 農作業体験というと、参加前は何かを収穫するイメージを持っていたのですが、苗の植え付け作業と収穫後の処理作業、いわば始めと終わりの作業を体験できて、農業に従事されている方のリアルな部分が垣間見えて、よかったと思います。

 

―グループディスカッションでは、どのような意見が出されましたか?

 

1日目・2日目とも最後にグループディスカッションを行い、話し合った内容を発表して参加者全員で共有しました(1日目・前田牧場にて)

雪野:
 前田牧場は、牧場や畑の他に直売所やカフェを経営しており、特にカフェでは食事もできるようなメニューを販売しています。そういった点で生産から販売まで効率的に、一連の流れのように仕組み化できているというのは、新たな気づきとして挙がっていました。またブランディングの難しさという意見も出ていました。ビールメーカーであるがゆえ、ブランディングへの意識が強くなりがちなのですが、今回現地を見て、どちらの農家も強いこだわりを持って生産されているのに、消費者にはなかなか届かないということを参加者全員が感じて共有できたというのは、とても大きかったと思います。

 

―今回の五感塾を振り返りつつ、今後の展望について教えてください。

 
金森:
 今回は、コロナ禍の影響で2年延期しての開催だったということもあって、目的意識がかなり高いメンバーが参加してくれて、「人間力(気づく力・感じる力)の強化」「支部間のコミュニケーションを図る」「地域とのつながりを持つ」という目的を達成できたと思います。2026年までの“VISION”ですので、「五感塾」は引き続き開催していきたいと思っています。参加者が周りに体験談を話したり、気づいたことや得たことをふまえて組合活動に取り組んだりして、周りによい影響を与えていくような流れにするには1回の開催だけでは足りないと思いますので、できれば年2回くらい開催したいと考えています。そして組合員一人ひとりが、自分のことだけでなく、組織や会社、そして地域も含めて、広い視野で物事を考えられるようになればと思っています。

 
 
― ありがとうございました!
(取材日:2022年7月26日)

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